前回記事(書評②)はこちら

皇帝フリードリッヒ二世の失敗

天才でも失敗するんですね。

皇帝フリードリッヒ二世はまさに「天才」だと思います。
この先の時代に華開くルネサンスを先取りしたような人物でした。
その業績については書評①を参照。

そのフリードリッヒですが、本作を読んでいると、何度か失敗していることがわかります。

教育の失敗

ひとつ目の大きな失敗は、教育の失敗です。
なんと息子に裏切られます

血縁関係が重要なこの時代、フリードリッヒの息子は皇帝の後継者です。

フリードリッヒは息子のハインリヒに、ドイツを統治させてました。
自身はイタリアの統治に忙しかったので。

しかし、このハインリヒが反旗を翻します

敵方である法王にそそのかされたとか、要因は色々あるのですが、責任は誰にあるのか?と問われれば父親となるでしょう。

フリードリッヒは天才であり、かつ完全な『独学』人間でした。
自分で本を読み、自分の頭で考えて行動してきた人物です。

故に、息子も放ったらかしても大丈夫だろう、と思ったのでしょう。
もちろん優秀な教師は付けてましたが、フリードリッヒ本人は息子の教育にはあまり関与してませんでした。

これは会社の上司と部下の関係でも同じかもしれません。
得てしてデキる上司の下についた部下は大変です。
自分ができたことは他人もできる、と思うのは大きな間違いです。

なお、この事件以来、フリードリッヒは子供の教育方針を変えます。
手取り足取りやるわけではありませんが、子供たちと手紙のやり取りを頻繁に行うようになりました。

凡ミス

もうひとつの大きな失敗は、戦争中のことです。
戦の時に、敵と睨み合って陣を敷いていました。

そのまま硬直状態だったので、フリードリッヒはある朝、趣味の「鷹狩り」に出かけます。

鷹狩りとは、鷹を使って獲物を狩る競技です。日本では徳川家康も愛好していたとか。

そしてなんと、鷹狩りに出かけている最中に攻められ、陣を奪われてしまいました。

これは油断凡ミスとしか言いようがありませんね。

さて、屈辱を味わったフリードリッヒですが、この後、即刻挽回します

鷹狩り中にやられた、などといったことが知れ渡ると、皇帝の信用失墜に繋がりかねません。
そんな暇も与えない間に、攻め返します。

フリードリッヒは、挽回力の強さを示してきたが、このときも同じだった。…苦難に出会うのは、何かをやろうとする人の宿命である。苦難を避けたければ、何ごともやらない生き方を選ぶしかない。ゆえに問題は、苦難に出会うことではなく、それを挽回する力の有無になる。しかも挽回は早期に成されねば効果はなく、それには主導権をいち早く、つまり敵よりも早く、手中にするしかないのであった。

どんな天才でも失敗はするもの。
それを即刻挽回できることが、天才の証明なのかもしれません。


次回が最終回です。
次回はフリードリッヒの死、そして彼が遺したものに迫ります。

書評④↓

http://13.114.192.231/friedrich4/

本作は上下巻存在し、ハードカバーの重たい本です。
Kindleをお持ちの方はKindle版で読むことをおすすめします。

まだ塩野七生さんの本を一度も読んだことがない方は、『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』がおすすめです。
他の作品に比べて分量は多くないので、この一冊から入るとよいでしょう。